チョコレートには欠かせないテンパリング。
初めての方には少し難しいと感じて諦めてしまったり、よく分からずに説明のとおり温度を変化させて、チョコレートのテンパリングを行っている人も少なくないのではないでしょうか?
テンパリングの原理をきちんと理解すれば、チョコレートのテンパリング作業は難しいものではなくなります。
今回はそんなテンパリングの原理について詳しく解説していきます。
溶かしたチョコレートをなぜそのまま冷やし固めてはいけないのか?
なぜ溶かしたチョコレートの温度を下げてから、再び温度をすこし上昇させる必要があるのか?
などテンパリングについての疑問が解決できるのではないでしょうか?
テンパリングの原理とは
チョコレートの主成分であるカカオですが、その中でもココアバターと呼ばれるカカオの油脂が結晶化することでチョコレートは、液体から固体、固体から液体の状態へと変化します。
とくにカカオの油脂分であるココアバターは、冷えて結晶化すると密度の高い固体となり、溶けて液体となるときには素早く溶けだすといった珍しい性質を持っています。
ココアバターが含まれることで、ツヤのある見た目、密度のある固さ、食べた際に溶けだすくちどけ感などチョコレート特有の美味しさなどに繋がります。
そんなココアバターを含むチョコレートは、結晶化する際にも変わった性質をもっており、冷えて固まる前の状態によって、作られる結晶構造が異なるという性質があり、チョコレートの固まり方、固まった状態に差が生まれます。
結晶化して作られた結晶構造がチョコレートに適していないものだと、冷えても固まらなかったり、ツヤのない見た目になったり、ぼそぼそとしたくちどけの悪い食感のチョコレートに出来上がってしまいます。
そこでチョコレートが液体から固体の状態へと冷えて固まる前に、テンパリングというチョコレートを調温する作業が用いられ、これがチョコレートに適した結晶構造を作るためにも必要な作業となります。
チョコレートに含まれるココアバターが一度溶けてしまうと、固体の状態を維持していた結晶構造も大きく壊れてしまうため、チョコレートを溶かして冷やし固める場合には、元通りの結晶構造に戻すために再度、結晶を揃えることが重要です。
チョコレートに含まれるココアバターの結晶の成長を促し、チョコレートに適した結晶構造へと導くための大切な準備作業がテンパリングなのです。
テンパリングの原動力は3つ
ココアバターの結晶を成長させるための原動力となるのは、温度と攪拌力、そして時間です。
テンパリングでは、この3つの原動力を活かすことで、チョコレートに最適な結晶のみを成長をさせて綺麗な結晶構造へと導きます。
ココアバターの結晶は、温度が低いほど結晶化が早まり、攪拌力が強力だと結晶化はさらに強まり、時間の経過によって結晶は成長していきます。
テンパリングでは、チョコレートを温度を変化させながら攪拌することで、チョコレートの温度をムラなく変化させながらもチョコレートの中では結晶化が進んでいます。
しかし、チョコレートはただ単純に結晶を成長させるだけでは、美味しいチョコレートにはなりません。
チョコレートに最適な結晶構造にするためには、作り出される結晶の違いを理解しなければいけないのです。
チョコレートの結晶の型には種類がある
チョコレートに含まれるココアバターの結晶には、大きく6種類の結晶の型が分類されています。
Ⅰ型~Ⅵ型(1型~6型)までの6種類の結晶の型は、それぞれ形や性質が異なります。
この6種類の結晶の中には、チョコレートにとって好ましい結晶の型と好ましくない結晶の型があります。
チョコレートをただ溶かして冷やし固めるだけでは、この6種類の結晶が混ざった状態で固まってしまうため、冷やしてもチョコレートが固まりにくかったり、ツヤのないざらざらとした見た目のチョコレートになってしまいます。
テンパリングでは、この6種類の結晶の中でチョコレートに適した結晶のみを成長させることで、密度の高いしっかりとしたチョコレートを作り出します。
結晶の違い
ココアバターの6種類の結晶はそれぞれ結晶の形や大きさ、性質などが異なりますが、特に融点と安定性の高さの差が重要となります。
Ⅰ型~Ⅵ型の結晶による融点の温度帯
- Ⅰ型・16℃~18℃
- Ⅱ型・22℃~24℃
- Ⅲ型・24℃~26℃
- Ⅳ型・26℃~28℃
- Ⅴ型・32℃~34℃
- Ⅵ型・34℃~36℃
融点とは、固体から液体となる温度を指しココアバターの結晶では、基本的に結晶が融解する温度帯、結晶化することが可能となる温度帯を主にあらわします。
Ⅰ型~Ⅵ型の結晶による結晶の安定性・結晶の形
- Ⅰ型・最も不安定な結晶形
- Ⅱ型~Ⅳ型・やや不安定で不規則でやや小さい
- Ⅴ型・安定性あり・無駄のない結晶形
- Ⅵ型・最も安定性が高い・結晶の大きさはやや大きい
不安定なものほど化学変化が起こりやすく、より安定性の高いものほど変化することはほとんどありません。
結晶の大きさや形によって結晶同士の結びつきが変わるため、チョコレートが冷えて固まって結晶構造となったときの密度の高さに関係します。
チョコレートに最適な結晶の型はⅤ型
Ⅰ型~Ⅵ型までの結晶の型のなかで、チョコレートに最適な結晶はⅤ型とされています。
チョコレートに含まれるココアバターの結晶においてⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型・Ⅳ型の結晶は、どれも融点が低く安定性が低いため、融点よりも高い温度帯の状態に置かれることで、結晶が融点を超えて融解してしまいます。
つまりⅠ型~Ⅳ型の結晶で作られたチョコレートは、常温においてしっかりとした固体の状態を保つことでできないのです。
また安定性の高さで言えばⅤ型よりもⅥ型の方が高いのですが、チョコレートに適しているのはⅤ型であり、その理由はいくつかあります。
まず結晶の型による融点の高さ、そしてチョコレートを食べる際に関係します。
Ⅴ型の結晶の融点は32℃~34℃、Ⅵ型の結晶の融点は34℃~36℃、チョコレートは口の中に入れた際の体温によって温められ溶けだします。
チョコレートは常温の状態では、密度の詰まっている固体の状態で、割るとパキっとした音が鳴る固さでありながら、食べた際に口の中で温められることで、スッと溶けだすくちどけ感が好ましいとされています。
Ⅵ型の結晶を含んだチョコレートは融点が高いため、口の中に入れても体温ではすべて溶け切らず、くちどけが悪くなってしまうます。
常温では固体の状態で指で掴んでも溶けず、口の中に入れると完全に溶け切るⅤ型の結晶の融点がチョコレートには一番適しているのです。
またⅤ型の結晶は形や大きさが結晶構造に最適とされており、Ⅴ型の結晶どうしでの結びつきが高く、冷えて結晶構造がきれいに揃うことでより密度がより高い状態で固体となります。
チョコレートの密度が高まることでキュッと縮んで詰まった状態となり、板チョコレートを割ったときのパキっとした音のなる固さが生まれ、型に流して冷やし固めると冷えた頃には型から縮んでスッと外れやすくなります。
Ⅵ型の結晶は形がすこし大きく粒子が粗いため、チョコレートはざらついた食感となり、結晶が大きいために表面に浮き出た結晶が光の乱反射によって白い粉がついたような状態となるブルームとよばれる劣化現象に繋がります。
さらにチョコレートに含まれるココアバターの結晶は、時間の経過にともない安定性の高い結晶へと移行する性質を持っており、Ⅰ型~Ⅳ型の結晶は不安定なためⅤ型の結晶を飛び超えて、より安定性の高いⅥ型の結晶へと移行してしまいます。
つまりテンパリングを行わずに冷やし固めたチョコレートは、最終的にこのⅥ型の結晶へと変わってしまうのです。
Ⅴ型の結晶のみを作り出す目的として行われるチョコレートのテンパリングは、Ⅵ型の結晶へと移行しにくくすることにもつながっているのです。
なぜ温度を下降させて再び上昇させるの?
テンパリングには方法がいくつかありますが、一般的にチョコレートのテンパリング作業ではチョコレートを50℃まで上昇させて溶かし、その後28℃まで冷やして再び32℃に上昇させながら攪拌する方法が知られています。
このテンパリングの温度帯にチョコレートを変化させることには重要な意味があります。
- 結晶の成長を早めるため
- テンパリングでは最初にⅤ型の結晶のみを作り出すことが目的であるから
この2つが温度帯を変化させながらチョコレートを攪拌する理由となります。
この理由については、以下のテンパリングの順番でも詳しく説明していきます。
チョコレートを32℃で攪拌してもテンパリングはできない?
わざわざ温度を変化させなくても、チョコレートを32℃の温度帯で攪拌すればいいのでは?と思う人もいるかもしれませんが、この状態でテンパリングを取るためには条件が高いのです。
理由としては
- 結晶の成長には時間がかかるから
- Ⅵ型の結晶が混ざっていることがあるため
チョコレートに含まれるココアバターの結晶を成長させる要因として、温度帯と攪拌力、そして時間の経過が関係します。
確かにチョコレートを攪拌しながら32℃の状態で保つことによって、Ⅴ型の結晶がチョコレートの中で徐々に作られていきますが、結晶が成長するまでにはとても時間がかかります。
とくにⅤ型の結晶を1から成長させるには長い時間が必要であり、32℃の温度帯を保ったままチョコレートをムラなく攪拌し続けることは手作業でのテンパリング作業では難しく、なおかつ短時間では行えないため、すぐに加工することができないことは大きなデメリットとなります。
そこで温度帯を変化させるテンパリングです。
チョコレートを決められた温度帯に変化させながら攪拌することで、Ⅴ型の結晶の成長を早めてテンパリングを短時間で行うことが可能となるのです。
また短時間で行うためⅤ型以外の結晶をしっかりと融解させて、チョコレートが冷えて固まった際に混ざっていないようにするのも重要です。
チョコレートの温度を変化させて結晶を作り直す
チョコレートを融解温度(チョコレートの種類で温度は変わるがスイートチョコレートでは基本的に50℃の融解温度)まで温度を上げて、チョコレートをとかす。チョコレートを融解温度で溶かすことによって、チョコレートにすでにできていたココアバターの結晶を一度すべて溶かすことでリセットする。
チョコレートに含まれていた結晶をすべて溶かして、最適な結晶構造を新しく作り直すために、チョコレートが結晶化する前の最初の状態にリセットするのです。
ですが、このままの状態で32℃に下げても、結晶ができるのに時間がかかりますし、冷やし固めても、チョコレートには不安定な結晶が多くできてしまい、最適なⅤ型の結晶が揃った結晶構造とはなりません。
チョコレートを28℃の温度帯まで下げる
そこで融解温度まで溶かしたチョコレートを28℃まで下げます。この28度の温度は冷却温度とも呼ばれるのですが、チョコレートの種類によって異なります。
28℃の温度帯は、Ⅳ型の結晶の融点が含まれ、チョコレートに最適なⅤ型の結晶の融点よりもわずかに低い温度となります。
28℃の温度帯でチョコレートを攪拌することで、Ⅴ型よりも不安定なⅣ型の結晶がチョコレートの中で多く成長し、わずかにⅢ型の結晶も作られ混ざった状態となります。
ココアバターの結晶は冷やす温度が低いほど結晶化が早く、不安定な結晶の型ほど結晶の成長が早い性質をもつため、32℃の温度帯よりも多くの数の結晶が成長しやすくなります。
つまり28℃までチョコレートの温度を下げることで、融点が少し高いⅤ型の結晶は少なく、Ⅴ型よりも不安定なⅢ型とⅣ型が多くできやすい状態を作り出すのです。
しかし、この28℃の状態を維持、または温度を下げて冷やし固めても、不安定なⅢ型やⅣ型の結晶が混ざっている状態のため、チョコレートを最適な状態で固めることはできません。
そこでチョコレートの温度を上昇させて変化させます。
31~32℃に再上昇させることで最適な結晶のみを残す
冷却温度まで下げたチョコレートを31℃~32℃の温度まで再上昇させます。この31℃~32℃の温度は上昇温度、保温温度とも呼ばれ融解温度、冷却温度どうようにチョコレートの種類によって温度帯が異なります。
再上昇させた温度帯は、チョコレートに最適なⅤ型の結晶が作られる温度ですが、Ⅲ型とⅣ型の結晶の融点を超えた温度であり、この温度帯ではⅢ型とⅣ型の結晶は融解する温度となります。
つまりチョコレートを31℃~32℃の温度帯まで上昇させて攪拌することで、チョコレートの中に先ほど作られたⅢ型とⅣ型の結晶が徐々に溶けていき、最終的にチョコレートにはⅤ型の結晶のみが少量の残った状態となります。
Ⅴ型の結晶へと移行させる?
ここでⅢ型とⅣ型の結晶が溶けてしまったら、わざわざチョコレートの温度を下げて再び上昇させる意味がないのでは?と思われるかもしれません。
ですが、ココアバターのⅢ型とⅣ型の結晶は、温度を再上昇して結晶が溶けていく際にⅤ型の結晶に移行しやすい性質を持っています。
これによってⅤ型の結晶化が早く進むことになります。
溶かしたチョコレートをそのまま32℃の温度帯まで下げて攪拌しても、Ⅴ型の結晶が成長するためには多くの時間が必要ですが、Ⅲ型とⅣ型の結晶が融解してⅤ型の結晶へと移行していくことでチョコレートの中にⅤ型の結晶がより早く作られるのです。
チョコレートの温度を変化させることで短時間によるテンパリングが可能となるのです。
結晶核を作り出すことがテンパリング?
テンパリングによってチョコレートのなかにはⅤ型の結晶が作られましたが、その数は決して多くはありません。
テンパリングが終えた後もチョコレートの中では結晶化が進んでおり、結晶が多く成長することで溶かしたチョコレートの流動性が落ち、粘度が高まっていきます。
テンパリングによってできた少量のⅤ型の結晶は結晶核と呼ばれ、チョコレートのなかにとどまり最適な結晶構造を作られるよう結晶化を先導していきます。
チョコレートが固められている際にも結晶化は進んでおり、少量のⅤ型の結晶が中心となることで、Ⅴ型の結晶へと誘導され綺麗な揃った結晶構造を構築していくのです。
結晶核は結晶構造を作り出す元でもあるため、結晶の種ともよばれます。
テンパリングを終えた後も結晶化には注意が必要?
テンパリングを行ったあとも、チョコレートの中では結晶が徐々に成長しており、低い温度帯や強い攪拌、そして時間の経過によって結晶化の進み方は変化します。
とくに温度が重要で、チョコレートは低い温度で冷やされるほど結晶化が早まります。
型やコーティング加工を行った後、チョコレートが固まっている間にも、Ⅴ型の結晶が結晶核となって結晶構造を作られています。
固める温度は16℃~18℃が適しており、冷やし固める温度が低いと不安定な結晶ができてしまうことに繋がります。
チョコレートを冷やし固める際の温度には注意が必要なのです。
テンパリングでも温度を再上昇させる必要がない場合とは?
温度を下げて再び上昇させるテンパリングの方法とは違い、溶かしたチョコレートの温度を下げていく方法もあります。
フレーク法やシード法と呼ばれるもので、簡単に説明すると溶かすチョコレートと溶かさずに刻んだチョコレートに分けて用意しておき、溶かしたチョコレートに刻んだチョコレートを徐々に加えていくことで適切な温度まで下げていくことで、テンパリングを行う方法となります。
またテンパリングの素とも呼ばれるココアバターを加えて行うテンパリング方法も同じ原理となります。
ただこれらの方法でテンパリングを行うためには、一定の条件があります。
なぜ再上昇させる必要がないのか?
そもそもなぜ温度帯を下げたり、再び上昇させたりする必要がないのはなぜ?
それは結晶の成長を早める必要がないためです。
融解温度まで溶かしたチョコレートは結晶構造が大きく壊れており、結晶が作られていない状態です。
しかし、溶かしたチョコレートに加えていく刻んだチョコレートの中には、すでにⅤ型の結晶が含まれています。
最初のうちは溶かしたチョコレートの温度が高いため、刻んだチョコレートを加えてもⅤ型の結晶の融点よりも高く溶けてしまいます。
しかしチョコレートに最適なⅤ型の融点の温度帯まで近づいてくると、刻んだチョコレートに含まれていたⅤ型の結晶が溶けず、残った状態を維持します。
これによって、不安定な結晶は溶けてⅤ型の結晶のみがチョコレートに残った状態となり、テンパリングが成功するのです。
この残ったⅤ型の結晶が結晶核となって、きれいな結晶構造へと揃っていきます。
しかし、この方法には注意点がある
このテンパリング方法では、少量のチョコレートでもテンパリングが可能であったりとメリットもあるのですが、いくつか注意点や条件があります。
- 加えるチョコレートはテンパリングがされているものであること
- この方法でテンパリングを行うとチョコレートの粘度が強いものに
このほかにあるのですが、今回はこの2点を解説していきます。
加えるチョコレートはテンパリングがされているものであること
テンパリングがとれているチョコレート、つまりⅥ型の結晶が含まれていないチョコレートが必要になります。
融解温度まで溶かすチョコレートはテンパリングの有り無しは関係ないですが、刻んで徐々に加えていくチョコレートのほうはテンパリングされていないと、適切な温度まで温度を下げてもⅠ型~Ⅳ型の不安定な結晶は溶かすことが可能でも、融点の高いⅥ型の結晶が一部残ってしまいます。
これでは、Ⅴ型以外の結晶が混ざった状態となるため、チョコレートのテンパリングは成功とは言えません。
チョコレートの粘度が強い
加えるチョコレートは、すでにテンパリングを終えて冷やし固めたチョコレートであり、ゆっくりと結晶が成長して綺麗な結晶構造へと揃っていたものです。
そんなチョコレートを刻んで加えているわけですから、温度を下げて再上昇させるといった1から結晶を作り直す方法と比較すると、刻んだチョコレートを徐々に加える方法ではチョコレートの中に結晶が多く作られた状態となっていきます。
固体のチョコレートは融解温度まで上げることによって、チョコレートに含まれていた結晶がすべて溶け、流動性の高い液体状のチョコレートとなります。
結晶が多く作られている状態は粘度が高く、流動性が良くありません。
チョコレートをコーティングしたり、型などに入れて冷やし固める際にはチョコレートが厚くかかってしまったり、気泡が入り込んでしまっていびつな形に固まってしまうこともあるため注意が必要で使い分けも大切です。